「復元的再築」陰翳礼讃な家

古民家に美しく住まう

 「目の前に広がるこの景色は50年前と本当に何も変わっていないように感じる。庭木ですら私が育った頃のそのままの姿のようで、まるで夢をみているかのよう・・・」

この古民家は入手時には草木が生い茂り、安易な増改築がなされ、昔の面影を消し大きくて暗い空間を有するだけの放置された建物となっていました。前所有者と仲介業者は壊して何軒かの建て売り住宅にしないかぎり買い手はつかないであろうと考えていたそうですが、借家からの立ち退きを早急に迫られ、思い立って古民家探しをしていた私の眼に留まったのです。見学をした家はたったこの一軒でしたが、下見の段階から建築士の方に同席してもらい、状態が良いことを確認した上で即購入を決めたという経緯があります。
 先のご婦人はそういった経緯は何も知らずに元実家であったこの家に50年の年月を越えて訪れたわけであります。修理を終えた家が元住人を呼び寄せたかのようなこの一コマは、この家の再築そのものが「日本の家」というものの住まい方と現代の継承方法を提示しているのかもしれません。

旧街道に隣接した隘路に建つこの古民家は、築90年の母屋、築70年の離れを渡り廊下で結ぶ入母屋四方下屋造りの建物に築120年の蔵が付属します。母屋と離れ、渡り廊下に囲まれた庭もあり、それなりな邸宅であったことが伺える古民家です。ただし、立派な田舎屋の造りではあるものの、放置された家財と安易なリフォームが古民家の良質点を消し去った状態となっておりました。

「不便でも構わないので、とにかく昔ながらの姿に戻して欲しい。」

 簡単そうに思える言葉ではありますが、請け負う側としては早々簡単な話ではなかったようです。「そうは言っても気密性を高めるリフォームが主流なこの御時世に、サッシ等を外し木建具にするということのリスクを承知してもらえますか?二階の元の木建具なんて障子のみですよ。本当にそれで大丈夫ですか?」との確認を何度かされました。


「とにかく後々住んでからの文句は言わないので、この目障りな新建材たちを撤去して欲しい。」サッシを残したまま当初の木建具を内側に付ける等の案も出してはもらいましたが、「妥協せずに当初の姿に戻す。」と言い切った私の意見を尊重して頂きました。

(以上の文章は、古民家再生を当社にご依頼いただいた住まい手の投稿から抜粋しています。)

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